本格的な舞台観劇は初めての体験ですが(少なくとも成人してから自腹では) すごく贅沢な心持ちのするものですね。 (いや、実際チケット代のこと考えるとひどく贅沢なんですが……A席壱万弐千円)
なんでただのオタクがこんなとこに来ちゃったんだろうか。何かを激しく間違えてしまった気がします。
ある程度予想はしていましたが、観客は、若い(もちろん綺麗に装った)お嬢さんがたもチラホラいらしてましたが、もし電車の中でお会いしたら一瞬の逡巡もなく席を譲ってしまうような方々が大多数でした。平日にも関わらずいい感じに席が埋まっていたのは、毎日が日曜日な方が多いからかと。 ビジュアル系バンドファンのお嬢さんの群に迷い込んだ時と別の意味で自分が浮いてるなあとは感じましたが、こっちのほうはこれからどんどん年齢的に違和感が薄れていくのだろうなあ(笑)
朝6時出発して、溜まったポイント使ってせっかくグリーン車乗ったのに爆睡して、開演一時間前の10時に明治座着。入口横にお稲荷さんがあったので、なにはともあれ良い芝居が見られますようにとお賽銭。開場待ちに座ったベンチには緋毛氈(笑) 館内の土産物フロアには、今回敵役として出演の横内正氏(初代格さん)のグッズが「横さまグッズこちら→」と売られていました。
取れた席は、前から2番目花道横という、舞台全体を見るには前過ぎるけれど、ある意味かなり美味しい位置でした。なにせ花道で演技してる役者さんが手を伸ばせば届く位置に! 後ろの席のご婦人方は「生足が」「生足が」とキャッキャしてました(^^; トークショーとかバースデーイベントとか、何かというと前の席を取れてしまう自分の強運にはあきれるしかありません。
内容は、かの人気時代劇作家藤沢周平の、もっとも人々に愛されている作品で、映画にもドラマにもなっているので、多かれ少なかれ筋を知っている人は多いのでは。 自分もドラマの1回目を見たくらいですが、新聞の紹介記事などでなぜか話のキモはある程度知っていました。 というわけでネタバレ御免。
とても良かったです。 4時間(2回30分休憩が入るので正味3時間)があっという間でした。 それでいて主人公たちが過ごしてきた長い時の流れの重みと無情さをじんと感じることもできました。少年時代から始まって、髪に白いものが混じった時点で終わるとき、ああこの人達は遠くまできたのだなあ、と。
尺の都合上、話をだいぶはしょっているいるわりに、権力闘争が背景にあって人物が多くてややこしいのですが、台詞の流れでうまく説明していたと思います。名前しか出てこない人も結構いたけどね。
主人公・牧文四郎を演じる福士誠治さんの若侍ぶりはとても凛々しく美しく見事なものでした。 そして、脇を固めるベテラン俳優陣の演技には息をのんで見惚れました。 特に文四郎の母親(正確には養母)役の野川由美子さんはすごかった。表情や立ち姿、ほんの一言の台詞で、複雑な心境を表現していました。 他の方々も、着物捌きからはじまって所作の一つ一つが流れるようで。 着物の動き……昔の日本人の所作って本当に美しいなあとしみじみしました。
メインとなる若手たちの演技も良かったです。 文四郎の親友・逸平はイケメンドラマなんかに出てた人らしいですが、声が明るく通っていました。 文四郎の思い人・ふくは、中盤は話にのぼるばかりで出番無し。少女時代よりも側室時代よりも、最後の場面で尼になる直前の扮装がもっとも似合っていました。一瞬、少女期の恋心が激しく吹き出して取り乱すけれど、すぐにかつて藩主の妻女であった落ち着きと侵しがたさを取り戻すところの切り替えは感心しました。 藩内の争いに翻弄される鶴之助も初々しくてよかったなあ。 で、えと、お目当ての内野さん演じる与之助は、郷里を離れる役で出番は少しだったです。そのほとんどは半泣きか困り顔で、相変わらずの顔芸……。数少ない笑顔の口の大きいこと。声もよく通って、舞台向いてるかもと思ったです。席が席なので、のどぼとけがピコピコしてるのまでよく見えました。
ある程度の年月を描いた話なので、場面が頻繁に変わり、そのたびセットや季節が変化するので美術さんは大変だったろうなあ。季節の表現には音響も大きく関わってましたね。なんてったってタイトル……。 しかし開演30分前に着席したら幕の向こうからトンカントンカン槌音が響いてきましたよ。しょっぱな夏祭りで、しかもいきなり回るし(笑)
お昼はお弁当買うんじゃなくて、食堂に予約を入れたのですが、休憩に入ってすぐ飛んでいくと、名前札の下がった席まで案内してもらうという、これまた贅沢気分。例によってお箸を落として、あと数口だしこのまま食べちゃおうかと思ったらサッと新しい箸を渡されて恥ずかしかったです。
あれですね、江戸の昔から観劇が庶民の最大の娯楽っていうのわかりますね。 装い凝らして出かけて、生の演技を見て、途中美味しいものをいただくというのは、なんとも心が華やぐものです。
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