昨日のことですが、昼間ぼーっとNHK衛星放送を流しっぱなしにしていると何やら映画が始まりました。「金鉱の町には必ず縛り首の木がある」と、軽快な曲に物騒な歌詞を乗せて始まったその西部劇は「縛り首の木」。実は題名だけは以前から知っていて、見たいなと思っていたので思わずテレビに向き直りました。 出演はゲイリー・クーパー、マリア・シェル。 題名からどんな陰惨な物語かと思いましたが、単純明快とはいかなくても気の利いた面白い映画でした。 主人公は訳ありの過去を負った医者で、西部の金鉱の町に流れ着き、金泥棒の若者をかくまい(ほぼ脅迫して)雇い人にします。この二人のつっぱらかった掛け合いがまず面白い。若者が一所懸命反抗するんだけど、お医者さまが上手上手で封じ込めてしまう。「自由のない所有物扱い」が徐々に「繋がり」へと変質していくのがなんとも。 このお医者さま、貧乏人の子どもを無料で診察したりする一方で、自分を悪魔扱いする酔いどれ牧師を銃で追っ払ったり、過去を揶揄する男をボコボコにしたりする。荒くれ男達の中でひとり黒尽くめでどこか都会的。微妙に“異分子”である。 そんな折り、駅馬車強盗が発生。生存者捜しの捜索隊があっというまに大勢の有志でできあがるあたり、西部ってそういう場所なんだなあと思わされる。 見つかった若い女性は怪我と強烈な日光による火傷で身動きできず失明状態。ボロ雑巾のようだった女性はお医者さまの献身的な手当により薄紙が一枚一枚とはがれていくようによく(そして美しく)なっていく。 この女性、スイスから移住してきたということだが、演じている女優さんが実際スイス出身らしい。自分にはわからないが言葉の訛りとかでそのあたりが滲むものなのだろうか。ともあれ、鄙には稀な美人……というか、凛とした気品のある彼女もまたどこか町にそぐわない。 いつしか惹かれ合う二人だが、彼女が回復した夜、お医者さまは突き放す。自分の手の内……「所有物扱い」から「自由」へと。それに噛みついた雇い人にもお医者さまは「自由」を与える。彼女と若者は地元のとびきりの荒くれと手を組んで金を掘り始める。彼女は初めの儚さから思いもよらない強靱さで土地に根を張ろうとする。その様子をお医者さまは影から守るのだが……。 結末はさすがに言わぬが花。 しかし終盤の集団が暴徒化する様子とか、法的手続きなしに「私刑」でものごとが運ぶ様子とか、実際にこういうことがかつて行われていたのだろうなと思うと怖かったです。
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