++たらたら日記++

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DVD「オイディプス王 アテネ公演」視聴

 どうということのない仕事のどうということのない疲れが積み重なり、昼まで起きられず、テンションがのっぺり低い休日。
 特撮番組の続きを見る気になれず、好きな歌い手の曲を聴いても気が浮き立たず、なにか普段とまったく傾向の違うものを見聞きしたい気分で、積み上げた未開封DVDから手に取ったのがこれ。





 蜷川幸雄演出、野村萬斎主演「オイディプス王」 2004年7月3日アテネ、ヘロデス・アティコス劇場にて収録。
 ギリシャの野外劇場でギリシャ悲劇を上演するという試み。

 だいぶ前に買ってたんだけど何時何処でだったやら。
 ちなみに自分は野村萬斎氏の狂言も舞台も見たことなくて、テレビでやってた陰陽師見たくらい。
 なら何故買ったのかってとこですけど……なんでだっけ?

 オイディプス王(エディプス王)のお話は皆さんご存じですかね。
 現存するギリシャ悲劇の中でもっとも有名なもののひとつで、運命の残酷さをこれでもかというほど見せつけるもの。
 その残酷でおぞましい真実を観客があらかじめ知っているかどうかで、受ける印象もだいぶ変わってくるような気がする。
 とりあえず、前半の自信に満ちたオイディプスを、愚かしく哀れだという目で見ずにいられなかったです。
 あのアテネの劇場に来ていた観客も話を知っている人が多かったのでしょうかね。まあパンフとかにあらすじはあっただろうし。
 自分は大学の授業で読みました。岩波文庫で。まあそれ以前に岩波少年文庫のギリシャローマ神話で筋は知ってましたが。

 正直、戯曲を文章で読んでも今一つピンとこないのですよ。学生時代は新旧織り交ぜていろいろ読まされましたけどね。
 特にギリシャ悲劇は上演形態が現在の演劇とはまるで違っているらしく、解説を読んでもどんな感じになるのか想像しづらくて。
 だから学生の頃は、是非本来の形式で上演しているところを見たいものだと思ったものでした。
 ついでに言うと、シェイクスピアの劇も円形劇場で見てみたいです。舞台がせり出していて、三方向から見られる形式の。(能舞台なんか構造近いと思うけど、あれは見るほうがフラットだしね)
 ああそうか、買った動機ってギリシャ悲劇をギリシャの野外円形劇場で行うというところに惹かれたんだった。

 普段自分は舞台とか(映像化されたものも含めて)滅多に見ない人です。「世界の蜷川」の手がけた舞台も大昔にNHKでハムレットやってるのを見ただけ(主演は渡辺謙)。
 そのときの印象は、ずいぶんとエキセントリックというか奇抜な演出をする人だなあ、と。まだ若かりし謙さんが途中から衣装がオーバーオールになっちゃったのもアレだったけど、最後にたなぼた拾ったノルウェー王子に領民が古い衣脱ぎ捨ててすがりついていったのが忘れられん。
 ……なんか話がそれまくって、なかなか本編の感想に入れないぞ、と。
 何が言いたいかというと、なんかちょっと偏見みたいなものがあって構えて見始めた、ということで。
 まあ結論から言うと、玄妙不可思議な雰囲気が物語と解け合ってすんなりと自分に入ってきました。それが戯曲オリジナルの持ち味なのか演出の賜物なのかは判別しかねますが。
 たぶん演出の肝はテーバイの長老たちであり合唱担当でありナレーションの役割を果たしている集団の使い道なんでしょうけど。特典映像見ると「コロス」と呼ばれてたけど。
 古代ギリシャ悲劇は役者とコーラスで進められる、とは知っていたけど、今一つ想像ついてなくて、やっとおぼろげながら雰囲気がわかりましたよ。
 名も無き役だけど、一人一人個性もないけど、端役じゃあないんだよね。物語を引き取り運んでいく車の車輪のような役割。
 ていうか、団体舞踏のような衣装ひらめかせる動きが、もうそれだけで効果上げまくっていたんだけどさ。雰囲気在りまくり。

 野村萬斎氏は、若く才気に溢れ、一方で頑迷で気性の激しいオイディプスを熱演されてました。ちょっと荒っぽいというかヤクザすぎるきらいがあったけど、考えてみたら元々の役がああいうことしちゃうお人柄だから。
 他の役のかたも素晴らしかった。
 盲目の予言者テイレシアスは声が凄く通ってカッコ良すぎ。屋外なんですけど、吹き抜けなんですけど?
 そしてテーバイの先王の妻にして、オイディプスの妻イオカステ役の麻実れいさん! すばらしい高貴さと色気。后どのは物語のうえでどう考えても50歳近くにはなってるはずで、それでなお女として美しいという描写に岩波文庫読みながら首をかしげていたのだけれど、そのお美しさと溢れる色香に激しく納得。
 どこかで拝見したような、と思ってたら、前にテレビで見た「AOI/KOMACHI」で日本一トレンチコートの似合う女(笑)を演じておられたのでした。

 疑いや不安、怒り、悲しみ、憐憫など、人の感情は数千年の昔から変わらず有り続けるということに感慨を抱きつつ、神々と運命に己の存在をゆだねるという底を流れる思想にいろいろ思いを巡らせたり。
 あ、あらすじとか設定とかまったく書かずにすみません。でもこの物語はいつかどこかで出会ったときに新鮮な驚きで向かい合って欲しいので。
 全てが一点に集まりおぞましき真実が明らかにされるその瞬間を、固唾をのんで見守るのも良いけれど、ひとつひとつの糸が縒りあわされていくのを見るのもきっと醍醐味であろうから。

 愚かで哀れなオイディプスに一粒の涙を浮かべるとき、そこに生まれるものをカタルシスと呼ぶのだと大学で学んだけれど、吐瀉したのは果たして何だったのか。少なくとも底を這っていたテンションは持ち直しましたよ。
 あ、書き忘れてたけど、劇場いい。すごくいい。すり鉢で、一番下は舞台の目の前で、一番上は向こうの丘の光景が見えてる。
2009年03月09日(月) (感想)

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