一つ映画を見に行けば、いろいろ予告編を見るわけで。 何のときに見たのか忘れたけど、どこか自分に引っかかったのがこの「春との旅」だった。 すっかり老人の顔をした仲代達也が孫とおぼしい娘さんと歩き、道端で「お前は俺を捨てていくんだ!」とわめき、画面が切り替わると二人ベンチに身を寄せ合っていた。 京都シネマかシネヌーヴォあたりでやるのかなあ、と思いつつ、いつやるとも知らずにいたのだけれど、ひとさまのブログに感想が上がり始めた。 近隣だとどこでやるのだろうかと検索をかけてみると、Tジョイ京都なる見知らぬ名前が。はて、いつのまに出来たのか、自分のアンテナも鈍ったなと思いつつ出かける。 行ってみれば知らぬも道理、シネコンの入った施設自体が6月4日オープンだった。平日なのに人いっぱい。
内容は、なるべくなら何も知らずに見に行くのがいいと思う。 ていうか、よくシネコンにかかったなあ。 出演者はやたら豪華だけれども。
老人と孫の旅の話。春、とは孫の名前。 北海道の海辺の寒村に二人きりで暮らす祖父と孫。 孫の失職をきっかけに互いの身の振り方でいさかいをおこし、祖父は自分の身を寄せる先を捜して疎遠だった兄弟たちを訪ね歩き、孫は足の不自由な祖父を案じて付き従う。
ただ、それだけの話。
無学で頑固でわがままな老人と、どうにも見た目の冴えない娘。(孫のガニ股歩きっぷりに最初驚いたが、足を引きずる祖父をいつも支えて歩いていて歩調がうつってしまったのだろう) 身勝手で気まぐれでどうしようもない祖父の言動に、孫がときに吐息を付き、ときにキレそうになりながら付き合うのは、長く一緒にいた家族だからこそ、なんだろうか。
行く先々で、それぞれの事情があり、それぞれの思いがあり。 長く生きた人の、人生について思う言葉がある。 まだ若い人の、答えの返らない問いがある。 身の置き所のない己はやるせなく。 所持金のほとんどない旅は情けない。 自分はまだ幸いにして人生でたじろぐほどの思いはしたことがないけれど、いつかこの身におきないとも限らないことで、どうにもやるせなく見ていた。
それでも、はじめ怒りにまかせて飛び出した祖父を、数歩離れて恐る恐ると言った風情で追っていた孫が、次第に毅然とした目をして立ち振る舞うようになっていき。 問題児であるところの祖父に、慈愛を含んだ表情が浮かび。
最後の最後だけは映画的結末だったかもしれない。私は幸せな終わり方だったと思う。
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