突発突貫七夕創作。
梅雨も終盤となって降ったり照ったりを繰り返し、日毎につのる蒸し暑さが夏の到来を予告する今日この頃。 宇宙警察地球署のエントランスに、どーんと大きな笹が鎮座ましましていた。 ぶら下がる短冊に書かれる文字は「安全運転」「防犯強化」「施錠徹底」などしかめつらしいものが並ぶ。ちらほらと「祈願・昇進試験合格」「昇給希望」など生臭いものも見受けられ、中には「早くヤマが終わって息子のサッカーの試合を見に行けますように」という切実なものもあった。 7月7日の夜遅く。役割を終えた笹を片付けようとメンテナンスの職員達が取り囲むと「ちょ、ちょっと待ってくださーい!」と甲高い声が響いた。 飛び込んできたのは桃色の星をあしらった制服を着た小柄なポニーテールの女性。地球署の名物娘、SPD胡堂小梅である。 「ちょっと見たい短冊があるんで、片付けるのすこーし待ってね」 そう言うと返事も聞かずに 「えーとどの辺りだっけ〜」 と上を見上げてきょろきょろし始めた。 やがて 「あっ、あれだ! あの緑の短冊!」 と叫ぶと、ぴょんぴょんと飛びはねる。 「あーん、届かないよ〜。自分が背が高いからってあんなところに吊すなんてずるい〜」 しばらくあっけにとられていたメンテ職員がおずおずと声をかける。 「あのー、まず笹を倒しますから、それから取ったらどうですか」
自動ドアの開閉するわずかな音に、センは端末のモニターから目を外した。 「おかえりー。おそかったね、ウメコ〜。やっぱフィギュア付きのはもう置いてなかった?」 「うん……」 入ってくるウメコはうつむき加減だ。 「あれ? ……買い出しにいった……んじゃなかった……っけ」 「あ、うん、ゴメン。えーと……途中で落としちゃった……かな?」 センは軽く首をひねる。 「どうかした、ウメコ?」 「ううん、なんでもないよ。」 「……そう」 ウメコも中央のテーブルに座る。今日の夜勤はマシンブルコンビ。特に事件も起きていないので部屋には二人だけだ。
ウメコは申し送りの書類に目を落としたが、内容はさっぱり頭に入ってこない。 センさんったら「そう」だけで終わらせちゃうんだ。 バンだったら「どーしたんだよ、何があったんだよ」としつこく聞いてくるだろうし、ホージーさんだったらミッション(おつかい)失敗した理由をきっちり言わせるだろうし、テツだったら「じゃあ僕が買ってきます」ってすぐとんでいくのに……。
ブツブツとつぶやいていると、センの呑気な声が飛んでくる。 「もうじきパトロールだから、外に出たら何か買おうね」 「うん」 答えてからウメコは小さなため息をついた。 制服のポケットの中には緑の短冊。 一週間前に二人で一緒に願い事を書いて笹に吊した。 お互いに中身はナイショで、勝手に見た自分がズルしたわけだけど。 私はあーんなに、恥ずかしい、冷静に思い出すと顔から火が出るくらい乙女チックなことを書いたっていうのに。センさんったら何が「天下泰平」よ。そりゃ世の中平和に越したことないけれど、もうちょっとねえ。 それに、そもそも……
ウメコが額に縦じわ作っていると 「ウメコ〜」 独特の言葉尻が上がる呼びかけで、ひょいとセンが覗き込んできた。 「わっ、びっくりした」 「そろそろ行くよ、パトロール」 それにそもそも…… 「あ、あのっ、センさんっ」 「なに?」 私ってセンさんにとってどんな存在なの? のどまで出かかった言葉を飲み込む。 中学生じゃあるまいし。 それに口にしたところで「大切な仲間だよ」とか「大事な妹みたいなものかな」と言われるのが目に見える。というかありありと幻聴が聞こえる。 はぁ〜。 やっぱり目鼻のくっきりしたハンサムに乗り換えようかなあ。地味で変人で何考えてるのかさっぱりわからない人じゃなくて。
「地味で変人で悪かったね」 「え?」 ウメコは顔をあげた。 「あの、聞こえてた……?」 センは大きくうなずく。 「も、も、も、もしかして、もっと他にも……?」 センはより大きくうなずく。 「乙女チックとか、なにが天下泰平よ、とかね」 「うきゃ〜〜〜!!!」 ウメコは顔を両手で覆った。 センはウメコの頭をぽむぽむと叩き、腰をかがめた。 「どんな存在か、だけど、『大切な仲間』も『妹みたい』も本当。でもそれだけじゃなくてね」 ウメコが指の間をそっと少し広げる。 「……じゃなくて?」 「ずっと一緒にいたくて、ずっと見ていたい存在、かな」 ぱっとウメコが手を外す。 「え〜〜微妙〜〜。こういうシチュエーションってもっと甘〜いこと言ってくれるもんじゃないの〜〜? それか、こう、言葉じゃなくても……」 いきなり照れ始めるウメコに、センはニヤリと笑う。 「ウメコが書いた短冊の内容教えてくれたらね」 「えーっダメ〜ッそれにもう捨てられたし!」 「でも覚えてるでしょ?」 「ダメダメダメ!」 「ずるいな〜自分ばっかり。ずるい人のことはもう知らないよっと」 「あーん、センさん、待ってよ〜」
オチがありませんが。
ともあれ。伊藤陽佑君、誕生日おめでとう。
|