(今回、かなり個人的かつセンチメンタルな内容となります。ご留意ください)
京都文化博物館での展示。 別に取り立ててマヤ・アステカやインカなどの古代文明に興味を持っているわけではない。 かといって、まったくの無関心とか、縁がなかったわけじゃなかった……ということを、入場するまでは忘れ果てていた。 正直、紙の買い出しが来館の主目的だったので、展示内容は少し面白そうだったらなんだってよかったのだ。
1階エントランス(誰でも見られる場所)の巨大な顔の石像にお出迎えされ、4階の特設会場入り口は南国っぽくディスプレイされていて、頑張ってるなあと微笑みながら冒頭の説明パネルへ。 今回の展示はマヤより前の時代に栄えたオルメカ文明に関するもので、いまひとつ知名度が低いであろうという配慮からか、かなり詳しく解説されていた。 その中の「メソアメリカ」という表記に、ああ懐かしいなと思った。 興味はない、と書いたけど、大学の一般教養で、曜日的に都合がよかったので、中央アメリカの古代文明に関する授業を選択したことがあったのだ。そのときの講師が地理的説明でメキシコを含む中央アメリカの呼び方で「メソアメリカ」という言い方にひどく拘っていたことを思い出した。 あの頃、講師は当時支配的だった学者さんの説に反論ばっかりしていたよな〜、ちょっとはあのセンセの説もメジャーになったんかな。ていうか、案外今回の展示監修していたりして、とか思いながら見進めていった。
主だった展示内容は、巨大な石像(大きすぎるものはレプリカや写真)や日本で言うところ土偶、ヒスイの斧(祭祀用)。そして、遺跡の壁に刻まれた石彫……は持ってこれないから拓本。 遺跡の名前は聞き覚えがないし、展示物も教科書に載っていなかったけど、四半世紀の間に発掘が進んだんだろうな。講師の先生、日本にいるよりメキシコで発掘している時間のほうが長くて、いろいろ手をつけかけていて、有望な遺跡がたくさんあるって言ってたし。……なんてことを考えながら見て回っていた。先生の名前さえ覚えていなかったけれど。
授業を取る前は「古代文明ってなんか神秘的でロマンチックじゃ〜ん」みたく思っていたのだけれど、耳慣れない地名や名前が沢山出てくるし、ごちゃごちゃしてるし、けっこう専門的だし、特定の学説への反駁が鼻につくし、ぶっちゃけ授業の半分以上は居眠りしていた。それでも、授業開始日は20人以上いた教室に学生が片手で足りるほどしか残ってなくても皆勤してた。脱線した話はけっこう面白かった。世界の謎不思議発見!みたいなテレビ番組で、おにぎりのルーツはメキシコに!なテーマで、ヤラセで住民におにぎり握らせて食べるシーンを映してたけど、ぶつぶつ「普段こんな食べ方しないのに」と(現地の言葉で)言ってたよ、とか。発掘現場写真で「使用前」「使用後」な写真をスライドで見せて、この間に数ヶ月かかってるけど、こんな風に一瞬で出てきたらいいなあ、とぼやいたりとか。 そして、当時まだ中二病引きずっていて古代文明というと砂糖菓子のようなふわふわキラキラしたイメージしか持っていなかった自分に、古代と言っても現代と地続きの「人間」が生きていた場所で、地理的用件に左右され、政治的葛藤や外敵との抗争が繰り返され、食べて寝て飲んで祈る人々がいただけなのだということを認識させてくれたのだった。 まあ、そんなことをどんどんと思い出して……講師の名前は思い出せなくても顔立ちや声や口調ははっきりよみがえってきて……まあ、授業の内容はやっぱりさっぱり、翼の生えた蛇とかジャガーのモチーフとか断片的にしか覚えてないけど。 途中のベンチに展示図録があったのでめくってみた。もしかして監修にあたってるかもしれないし、すくなくとも参考文献あたりは使ってるだろうから、名前も見れば思い出すだろうと思った。 それらしき名前は末尾の文章にあった。長らくメキシコの遺跡発掘に携わってきた大井邦明氏は残念ながら2009年亡くなられた、と、謝辞と共に。
四半世紀とは思う以上に長かったようだ。 ばりばりにエネルギッシュな印象しか残ってないのに。 あれからどれだけの遺跡を掘って、どれだけの成果を世に出してこられたのだろう。 展示の出口には、子ども向け企画の展示物の塗り絵が無数に貼り出されていた。
|