この2週間ほどのあいだに2本映画を見た。 1本は「白いリボン」。2009年のパルムドール大賞受賞作らしい。 監督のミヒャエル・ハネケは映画ファンには知られた存在らしいけれど、自分はまったくわからず。出演俳優もまったくわからない。 新聞の映画評を見て何故だか、これは映画館で見なくては、と思ったのだった。
舞台はドイツのとある田舎の村。 村人の半数は男爵の荘園で働いていて、牧師の指導の下、信仰により規律をもって結びついている、小さな村。 麦狩りは鎌による手作業で行われ、移動手段は馬車か馬だけど、金持ちは自転車(前後の車輪が同じサイズ)を持っている、そんな時代。 村の名士であるドクターの落馬事故から映画は始まる。何者かが通り道に針金を張って故意に事故を引き起こしたのだ。 それを皮切りに、人々の記憶が消えかけた頃を見計らうようにして、陰湿な事件が繰り返される。 物語の語り部は村にただ一人の教師だが、彼が主人公ではない。あえていうなら、小さな村・閉ざされた地域社会そのものが主人公だ。
映画評を読んで、あらかじめ一連の事件の犯人は最後まで示されないままだと知っていた。だから謎解きに腐心することは最初から放棄して、ただ画面を受け止めることに努めた。そして、それはかなりの労力を要した。 画面は決して分かりやすく語ろうとはせず、次々と説明無しに出てくる登場人物たちの関係や社会的地位を把握するのにあっぷあっぷ。 鑑賞後に他のブログの感想などを見て、退屈だったとか睡魔に襲われたとかいうものが多かったけど、とんでもない、こちとら気を張りっぱなし。なんともいえない不気味な緊張に襲われ続けていた。
画面は白黒。音楽も効果音も一切無い。 まるでその時代、その場所にカメラをそのまま持ち込んだよう。 そしてカメラワークも至極控えめ。 事故死した百姓女の遺体を葬式のために整えている最中に、駆けつけた夫が、妻の横に腰掛け見下ろす。その姿は狭い部屋の外からとらえられ、男の顔は壁に隠され見えない。 あるいは、帰宅が遅れたことをひどく叱責され、食事を抜かれた牧師の息子が、翌日父に罰として鞭打たれる、その様子は扉が閉ざされ、風切る音と悲鳴だけが観客に届く。 牧師がわが子らをなじり、「愚かな子ら」が行儀と規律を覚え、悪徳を退ける助けとなるよう強制的に身に着けさせるのが、題名の白いリボン。
見ていて最初に思ったのが、この父親の厳しさだった。今どきのなあなあな親子関係からは考えられない、親の権力の強さで、これだと躾けもピシッといくなあ、などと思ったが、見ているうちにそんなのんきなことを言っていられなくなった。 物語の小さな舞台の全てにおいて、「支配」が席巻していることに徐々に気付かされたのだ。 地主である男爵は村人を支配し、牧師は良民を支配し、父親は子を支配し、夫は妻を支配する。ある時は命を奪いかねない勢いで。 小さな閉鎖した人間関係の中で、悪意が降り積もり燻っている。 一連の事件は権力者への悪意が吹き出したものに違いはないのだけれど、結局明確には描かれない。
時代的なものか、宗教的なものか、立場的なものなのか、抑圧の激しさに私の鈍い頭でも気付かされたのが牧師の息子の一件だった。 彼は物語のごくはじめの段階で自分の命をわざと危険にさらす真似をし、神さまが自分を殺す機会を与えたのだと教師に語る。それからもひどく悩む様子を見せ続ける彼。牧師は息子を問いつめ、私たちにはわかりづらい抽象的な物言いで、息子の罪を暴き立てる。 何がなにやらだったのだが、後になって、息子が夜の間、手を縛られている描写を見てはっとする。 彼は自慰を覚え、そのことで罪の意識に苛まれ、父親に激しく弾劾され、文字通り戒められたのだ。
物語は唐突に終わる。 突如、戦争の足音が迫り、大きな風が村にわだかまった空気を吹き飛ばし、人々はむしろ明るく晴れ晴れと変化を待つ。
このラストについて、ナチズムの到来と成長した子どもたちがそれを支えるであろうことに言及する映画評は多かったけれど、自分にはそこまで読み取れなかった。
実はうっかり空腹の状態で見に行ったものだから、終わりのほう、腹の虫が鳴る音が響いちゃって響いちゃって、エンドロールが無音で流れるなかにそれなもので、恥ずかしいやら申し訳ないやら。
この映画の描くものは、たぶん特殊な何かではなく、ひどく普遍的なものなんだろう。日本でもほんの数十年前までは、強権的な支配の連鎖が社会のあたりまえだったのだから。 それにしても、お金持ちも貧乏人も、みんな子だくさんだったなあ。
で、相棒2です。 同僚に「Me(仮名)さん、もう相棒見に行きました?」と何度も聞かれて、まだと答えるたびに、ああ話したくてたまらないことがあるのにという表情をされまして。 ダンナとスケジュール合わせてやっと見に行って。 ああ、これだったのね、と。
某ドラマの劇場版がまるきりテレビのまんまだったことを思うと、しっかり映画の特別感はあったし、前の映画(マラソンネタのやつ)が犯人の心情と行動が乖離しすぎて後味悪くなりすぎていたことを思うと、良いバランスで見られたと思うんだけど。
もっと先のシリーズに、あの二人の直接対決を持っていくのだと思っていたのに。
久しぶりに一条刑事(違)を見て、やっぱり制服似合うわ、かっこいいわと思ったり、入れ墨のチャイニーズマフィアのひとがどうにも見覚えがあるなと思っていたら、ブレイドのピーコックアンデッド伊坂さんだったのね。 冒頭のシャワーシーンはあれやっぱりファンサービスなんでしょうか。ていうか大河内さんガタイいいな。
「おもしろかったけど、寂しい」と、夕食をとある回らない寿司屋でとりながらダンナがぽつりとつぶやいた言葉が、すべてでございますよ。
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