何年ぶりだろうか。餓狼伝説ビリー・カーンのおたおめSSです。 一応自分が昔書いていた餓狼SSの時系列でいうと、サウザー主催KOFが始まる直前。
そろそろ住み慣れてきた安宿のベッドに寝転がり、ビリー・カーンは一枚の絵ハガキをまじまじと眺めていた。 サウスタウンの消印と、几帳面さと可愛らしさの同居した文字。リリィから短いが心のこもったメッセージが綴られていた。 「…… Merry X'mas and Happy Birthday」 最後の言葉を口に出して読むと、くるりと裏返す。 空へ届けとばかりそびえ立つクリスマスツリーの威容には見覚えがあった。昨年サウスタウンの広場に建てられたツリー。出資者はハワード財団だった。
こちらから送ったカードはもう届いただろうか。 山間の何もない小さな田舎町だというのに、12月になると忽然ときらびやかな市が立ち大いに賑わいを見せた。 クリスマスにちなんだあらゆるものが売られ、その華やかさに驚かされたが、名のある大きな町では比べ物にならぬほど見事な市が開かれるという。 色とりどりの灯りに飾られたその様子を写したというカードと、素朴で可愛らしい木彫りの人形や玩具をいくつか求め、妹に送ったのだった。
カードをそっとサイトテーブルに置くと、天井を見上げた。
市で買った何とかいう菓子は今朝食べ切った。少し甘いがリリィはきっと好きな味だろう。レシピを聞いて、来年一緒に作るのも悪くない。 来年…
ビリーは一つ息をつく。
来年の今頃がどうなるか、彼にはまるで見当がつかなかった。 この一年はあまりに激流過ぎた。
一年前の今日はリリィが教会で配るために焼いたクッキーと、誕生祝いのケーキの香りに満ちた暖かい部屋で過ごしていた。 甘い香りが記憶をかすめると、急に空腹を覚える。
パンケーキとベーコンでも焼くか。
クリスマスディナーとしては侘しいが、このあたりの肉加工品の旨さはサウスタウンとは比べ物にならない。 ベーコンエッグなど、卵好きとしては実にイカした出来になるが、キング・オブ・ファイターズ本番が眼前に迫っているのでそろそろ節制が必要だ。
ま、明日から、な。
フライパンでカリカリに焼いたベーコンに卵を落としながら、誰に聞かれるわけでもない言い訳をつぶやく。
……近頃たるんでるんじゃないか
黒服の秘書どもの嫌味が耳によみがえる。 そんなとき、あの人はこう言う。
…やれるな
やれるさ。やってみせる。
ポンと裏返された卵から軽快な音が立ち始めた。
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